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16 犬山市のビジョンと河合雅雄さんとの出会い

  医者も大事にしたが、私は学者も尊重した。学者というのは原理原則を重んじる。われわれ政治家は現実を追っかけるゆえに往々にして原理原則を見失い、漂流する危険性がある。河合雅雄さんは兵庫県篠山の出身であったが犬山にモンキーセンーができた時所長になって以来50年近く犬山在住だった。犬山市の名誉市民になってもらったが、世界のトップレベルの動物学者であり、本物の知性とはこう言うものかと学んだ心から敬愛できる人物だった。
  河合さんは科学者であると同時に文学の才能も豊かであり、思想家でもあったので、犬山市のビジョンを考えてもらった。河合雅雄さんを座長に審議会を作り、三年間の議論を経て河合哲学を表現した犬山市総合計画が出来上がった。

   木曽の流れに 古城が映え
   ふれあい ゆたかな
   もりのまち

  犬山市は全体の七割が美しい里山の森にすっぽりおおわれているまさに森の町だ。そして河合哲学の根本は「森の思想」である。
  河合さんはこんなことも言われた。
  「犬山の森はウイーンの森のようだね。森の中にお城があり、レストランがあり美術館や博物館があり文化があり…」。
  たしかに犬山には明治村、リトルワールド、モンキーパークなどのカルチャー施設があり、一方では東京大学演習林の美しい里山、その隣に世界最高レベルの京都大学霊長類研究所が並ぶ。この言葉がヒントになって、まちづくりの方向として「全市博物館構想」が出来上がる。
  このビジョンのキーワードは「森」のほかに「木曽川」もある。この木曽川こそわが故郷の母なる川であり、この地に住む人のDNAに組み込まれたアイデンティティーなのである。木曽川に関しては、対岸の各務原の森市長と連携し、「木曽川学研究会」やら、「ライン共和国」を建国させるなど、面白いアイデアが次から次へと出てきた。
  「森の思想」の重要なところは動物との共生だ。森は植物の生息地のみならず、実に多くの雑多な動物の生息空間だというのが河合思想の大切なところ。だから野鳥の観察会を積極的にやった。鵜飼の他に鷹狩にも手を出した。各種犬のコンテストも誘致した。まさに犬山は動物と共生するまちにしたかった。
  この話をし始めると切り口が次から次へと広がり楽しすぎるからこのくらいにするが、この全市博物館構想の最終目標は市民の生涯学習にあった。人間というものは歳とともに肉体は衰える。これは止めようがないが、しかし脳は使えば無限に成長する。向上無限だ。誰でも、いつでも、どこでも学習を続けることができるまちづくりが全市博物館・生涯学習のまちづくり、別の表現をすると、「まちは生涯学習の最良の教室である」だ。
  このイメージは教育行政に結びつくが、とにかく犬山市長に就任して総合計画を作り、「全市博物館構想」をゴールイメージとしてとらえ、その完成を犬山市制50周年に置いた。おおよそ10年、それは市長職3期目にあたると予想し、この犬山市制50周年は用意周到に計画した。式典の挨拶は何度も書き直したし、たまたまアメリカのボストンに行ったときケネディーライブラリーによって、ケネディー大統領の就任演説のビデオを繰り返し観、スピーチの研究をしたくらい思いを込めた。