仕事柄、人に会い、話をする機会が多い。
ビジネスの話が一段落すると、お互い の気心を探り、交誼を深めたくて時の話題、趣味、健康法へと話が弾む。
雑学を好み、浅学非才の身には、愛読書とか座右銘を問われるのが、どうにも辛い。
ところがさる日ある人から、地図と地球儀、鉄道時刻表と航空時刻表を身近に置き、時の流れと空間の広がりのなかに、多次元の組み合わせを楽しむお話を拝聴して以来、当方もいささか意を強くした。
かつて自分の時間をかなり自由に得られた若かりしころ、地図帳と時刻表を頼りに旅に出て、全国全都道府県踏破を目ざして渡り歩いた時代から、地図を眺め、かの地この地を好んで座右に置いている。
ビジネスの話であれ、人の生きざまの話であれ、話の舞台はどこどこでと、場所とか周囲の状況が欠かせない要素である。
話題の地点と方位を頭のなかに描き、ときには地図を広げて目で確かめないと気が済まない性分になったと思う。
方向感覚が鈍っていては、話の筋道も立てられないし、相手に話を聞き届けてさえもらえないだろう。
早い話が、「やってみます」「頑張ります」と言ったところで、さてどちらを向いてやればいいのか、目標や答えが分からずに、駆け出し汗を流すばかりでは、仕事にならない。
[この項:初出稿:1987.12.機関誌TOKAI vol-no.379]