終戦から2、3年経ったころ、木曽川、犬山城下流(小渕)に農業用水(宮田用水)取水口変更工事が完成し、その竣工・通水式典に、「今上陛下(昭和天皇)が行幸される」その日。
仕事を休んで、きょうはお迎えに行こうと、親父が言い出した。
リヤカーの荷台に新しいムシロを敷いて、子ども全部を乗せる。
4里はあろう 遠い道のりを、会場が望める堤防まで、踏ん張ってぺタルを漕ぐ。
その後姿のたくましさと、べったりかいた汗まみれの背中。
「リヤカーは 重いが 静かでいいや」
「おまえたちも尻は痛くなかっただろうに」。
木曽川堤防左岸堤防道路。
生涯初めてにして 唯一の記憶:親子で遠出の想い出。
いまも車で ここを通るたびに、リヤカーと 親父の背中が蘇える。