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株価が乱高下し世間を騒がせている。円安効果で、輸出を中心とする大企業が軒並み収益を上げている。が、逆に輸入品は値上げを強いられている
「アベノミクス」の光と影が連日マスコミを賑わし、何か日本中が景気上昇による高揚感を期待しつつある。「アベノミクス」とはリフレ、即ち意識的なインフレ誘導、バブルを作ることであるとは大方のエコノミストの解説するところだ。景気が良くなることに水を差すつもりはないし、自民党政権にケチをつけることもないが、私もこの年になると経験からくる読みというものが働く。表面よりも目に見えない地下のありように関心が行く。安倍さんの話には「一番・最大限・最先端・革新的・競争力・勝ち抜く製造業・潜在力の高い成長分野」等々ギラギラの言葉が並ぶ。少々古い四字熟語を使うと「弱肉強食」の世界だ。
今の日本は成長から成熟にはいり、山登りでいうと登頂を終えて下山の時期だと考えてきた私にはどうも腑に落ちない時代感覚だ。一体安倍内閣は日本をどこに連れて行こうとしているのだろうか。「アベノミクス」の矢は完全に後に向かって放たれるような気にすらなる。
1970年代、いわゆる日本経済の絶頂期に成功し、バブル崩壊とともに資産を失くした人達の経験談を読んだ。夢よもう一度とは思わないというのが彼らの感想だった。
芥川龍之介の「杜子春」を思い出した。杜子春は二度仙人の力により洛陽一の大金持ちになるが、豪遊散財、無一文となる。三度目は仙人の言葉を遮り大金持ちになる空しさを悟り、一農夫として慎ましいが幸せな人生を送る。芥川の洞察と文学の力は私に珠玉のような上質の価値観をもたらす。
私が衆議院議員であった民主党政権でも、某大臣は会合の冒頭先ず、今日の円相場はいくらですから始まった。会議の議論も勉強会も、経済問題、景気の動向に関するテーマが多くを占めた。とにかく景気だ。景気が良くならなきゃ何言っても駄目だ。そんな価値観が当時も国会を覆っていた。何のための経済成長かという議論が置き去りになっていた。が、今はもっと酷い。完全に本末転倒だ。経済成長したらそれをどう分配するかの議論が忘れられている。「弱肉強食」から「弱者救済」にシフトするのが政治ではないのか。
私は経済というのは成長と競争も大切だが、それと同じくらい分配の議論をしなければ、何度も言うように本末転倒であり、どんなに景気が上昇しても無意味だと思う。この先何だかどんでん返しがあるような不安な気持ちを抱くのは私一人であろうか。